あなたまだ八里あまりでございますよそのほかに別に泊めてくれますうちもないのでしうかそれはございませんといいながらたたきもしないですずしい目でわしの顔をつくづく見ていたいえもう何でございます実はこの先一町行けそうすれば上段のへやに寝かして一晩あおいでいてそれで功徳くどくのためにする家があるとうけたまわりまして全くのところ一足も歩行あるけますのではございませんどこの物置ものおきでも馬小屋のすみでもよいのでございますから後生ごしでございますとさき馬がいなないたのは此家ここより外にはないと思たから言 婦人おんなはしばらく考えていたがふとわきを向いて布のふくろを取ひざのあたりに置いたおけの中へざらざらと一幅ひとはば水をこぼすようにあけてふちをおさえて手ですく俯向うつむいて見たがああお泊め申しましうどいてあげますほどお米もございますからそれに夏のことで山家は冷えましても夜のものにご不自由もござんすまいさあともかくもあなたお上り遊ばして というと言葉の切れぬ先にどかと腰を落した婦人おんなはつと身を起して立て来てお坊様それでござんすがちとお断り申しておかねばなりません きりいわれたのでわしはびくびくものではいはいいいえ別のことじござんせぬがわたしくせとして都の話を聞くのがやまいでございます口にふたをしておいでなさいましても無理やりに聞こうといたしますがあなた忘れてもその時聞かして下さいますなようござんすかい私は無理におたずね申しますあなたはどうしてもお話しなさいませぬそれを是非にと申しましてもておらないようにきと念を入れておきますよ 仔細しさいありげなことをい 山の高さも谷の深さも底の知れない一軒家の婦人おんなの言葉とは思うたが保つにむずかしいかいでもなしわしはただうなずくばかりはいよろしうございます何事もおりつけはそむきますま 婦人おんな言下ごんか打解うちとけてさあさあきたのうございますが早くこちらへくつろぎなさいましそうしてお洗足せんそくを上げましうかえいえそれには及びませぬ雑巾ぞうきんをお貸し下さいましああそれからもしそのお雑巾次手ついでにずぷりおしぼんなすて下さるとたすかります途中とちで大変な目にいましたので体を打棄りたいほど気味が悪うございますので一ツ背中をこうと存じますが恐入おそれいりますなそうあせにおなりなさいましたさぞまあお暑うござんしたでしお待ちなさいまし旅籠はたごへお着き遊ばして湯にお入りなさいますのが旅するお方には何よりご馳走ちそうだと申しますね湯どころかお茶さえろく
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